(映画の話)
映画「ヒミズ」を観て
「頑張れ住田、がんばれ住田、がんばれ、がんばれ、頑張れ、がんばれ住田」
息を切らせて走るこの映画の若き男女の主人公。このラストシーンに、映画作家は、やり場のない暗い世界にせめて一条の光を当て、人間の尊厳を少しだけでも取り戻させたかったのであろう。人間の尊厳を踏みにじる、救いようの無い登場人物たち。その中で極限まで堪え生きる住田佑一。その住田をいつもそっと眺めている茶沢さんこと茶沢恵子。
第68回ベネチア国際映画祭マルチェロマストロヤンニ賞を受けた園子温監督の映画「ヒミズ」を見た。
映画を観るまでは実はあまり期待していなかった。理由はない。ただ、長年映画を観ていると見る前になんとなく第六感というか予感がある。その予感は大抵当たる。当たるどころか予感以下の場合が多い。
良い奴と悪い奴、勧善懲悪のはっきりした人間模様。悪も善も、やや過剰な人物の描き方ではあるがその分、見る人にとってはわかりやすい。賞をとった作品だから言うのではないが、最近ややだれ気味であった私の映画観賞眼を少しインスパイヤーしてくれたようだ。
撮影完成直前に東北大震災が起こり園監督は急遽宮城県石巻市の震災跡にロケをしたと聞く。この不幸な震災地での生々しい惨状の絵が、海外の批評家達の関心を引き、マルチェロマストロヤンニ賞受賞に結びついたことは否めない。
漫画嫌いの私はこの作品を読んで(見て)いないが、この映画は漫画家古谷実の「行け!稲中卓球部」が原作であると聞いた。このシリアスな映画の原作が漫画だというのも何故か斬新な印象を受ける。
原作と言えば、原作のある映画は過去の例で私の独断と偏見ではあるが、映画は原作には及ばないことが多い。映画のほうが原作より優れていたのは、昔の名画「シエーン」くらいなものだ。
「シエーン」を見た人は、ストーリーは覚えていなくても、あのラストシーンは殆んどの人が記憶に留めている。この映画「ヒミズ」もシエーンや、第三の男、禁じられた遊びとまでは行かなくても、ラストシーンは人々の心に残るのではなかろうか。又このラストシーンがなかったなら住田君や茶沢さんだけでなく、映画を見ている我々にも救いがなかったと思われる。